2023年10月06日

小数 【VOICEVOX:WhiteCULさんに詠んでもらった】

少数

「小数」

詩 清水らくは
朗読 VOICEVOX:WhiteCUL
posted by rakuha at 18:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 朗読 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月26日

釜戸駅にて


雨は降りやまず電車は止まったままだった
売店で買えたのは漫画の十二巻だった
知らない二巻の間に二人が死んでいた
電車はまだ止まっている
私は十二巻の最初に戻る

こんなことなら期日前投票に行けばよかった
と、母は言った
本当ならば家に帰りついている時間
駅舎には壁がない
列車に戻って窓の外を見た

一人ではないということを
深く理解できる時間だった
この星に生まれたので私には母がいた
きっと この日に向かって生きてきた
一度雨の不誠実さに洗われて
明日からまた生き直すのだろう
列車が動き出すというアナウンスがあった

雨はまだ降り続いている
今も晴れ渡っているところがあるだろう
選挙が行えないところもあるだろう
星を追われてさまよう宇宙人もいるだろう
などと考えていた

新幹線に乗り換えると
星はあっという間に回っていった
読み飽きてしまった十二巻のように
いつもの町へと帰っていく
長居することはない駅へと下りる
posted by rakuha at 15:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ★レディ・プロティノス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月22日

温泉


閉鎖された温泉旅館に
残された金魚鉢
透明だけがほこりを纏って
世界の終わりを待っている
計算された本館と
規則正しいだけの別館
二つをつなぐ橋は
今も美しい
バスの来なくなったバス停
表情を失った顔はめパネル
美しくなくなっていくものたち


一時期宇宙人が隠れ住んでいたことも
動画を撮りに来た人がカメラをなくしたことも
特殊なカップルがそこで愛し合ったことも
知られないままに
ありきたりな廃墟は
今日も演技を続けている
川のせせらぎが心地よいことも
蝉の声がうるさいことも
そう、温泉が湧き続けていることも
楽しんで秘匿しているのだ


過去は決して輝いていない
閉鎖された瞬間に
朽ちていくものとして始まったのだ
金魚鉢の透明もいずれは砕けて
地面の一部に沈んでいくだろう
橋もいつか落ちて
旅館は別離してしまうだろう
いつかただ温泉の湧き出る場所となって
美しく完成するのだろう
posted by rakuha at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | ★レディ・プロティノス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月10日

解放されるとき


昨日は楽しかった
楽しい、が楽しかった
楽しいを思い出すと
楽しいがよみがえってくる

今日は悲しい
悲しい、が悲しい
悲しいをかみしめると
悲しいが深まっていく

楽しいと悲しいが
こんなに近いなんて
なんだか腹が立つ
腹が立つ、が腹が立つ

予想しきれない天気だとか
偶然出会ってしまう誰かだとか
世界の裏側のニュースだとか
心はいつも引っ張られてしまう

楽しかったから悲しい
悲しめるのは嬉しい
嬉しいのは切ない
切ないのはわびしい
夢を見ている間も
解放されることはない

何も感じずに
詩を書いている
posted by rakuha at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ★レディ・プロティノス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月23日

翼(朗読)

posted by rakuha at 11:22| Comment(0) | ★葡萄酒と貝殻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年12月05日

過去


振り返ってみると過去はもうそこにいなかった
私が知ろうとしなかったことは
私に語る権利のないことだった

振り返ると私が連なって倒れていた
私は自らを捨てながら進み
私のことを忘れながら生きている

私の前には未来などない
この瞬間にも私はこの世界からこぼれ落ちて
私であった私になっていく

振り返ったままの姿で考えている
私が何者かになろうとする時は
私自身を殺したい時なのだ
けれども私は私の過去の姿が
どうしようもなく愛おしい

失われた私を真似ながら
私は今日も振り返っている
posted by rakuha at 19:53| Comment(0) | ★ノートの遺した傷 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月30日

新潟の海


新潟の海には限界があった
視界の先にある佐渡島に
いつか行けるのだと思っていた
波を消すブロックの上に立って
青い世界を眺めていた

私が佐渡島に行くことがないうちに
祖父は亡くなった
遺産でもめた後に縁は切れて
私は新潟の海から切り離された
一度だけ祖父の墓参りに行った
いつか自分も入る暗い穴
朽ちた花弁を一枚つまんだ

新潟の海をもう一度見ることはあるのか
猫を捨ててきたと言った日
私は祖父を嫌いになった
縁を切るほどには深いかかわりがなく
緩やかな記憶でつながったままの私と祖父
いつか暗い穴の中で出会うのだろうか

幼い日に見た青い世界が
今でも私を呼んでいる
一度祖父とゆっくり話したかった
切られた縁の端に手を添えて
体に流れる血を感じてみる
猫を捨てない私であるためには
何が必要なのだろうか

暗い穴の中にいる人へ
私はいつかそこへ行きます
温かい記憶をなくさないように
綺麗なものをしまう部屋を心に作って
生きていくから待っていてください
新潟の青い海と共に
posted by rakuha at 18:49| Comment(0) | ★ノートの遺した傷 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月21日

羽回る


白と灰色の円が見えた
そしてくるくると回るもの
風を生まずにゆっくりと
コンクリートブロックにぶつかって止まった

鳩が死んだ

車が走り去っていく
くるくると車輪を回して

私は終焉のしるしを
どこに刻めばいいのかと思った
その時

くるくると回る光があった
螺旋を描きながら
舞い上がっていく
しばらくして消えた

私の喉に
吐き出せなかった言葉がある
家に帰り風呂に入って
魂に石鹸をこすりつけた

翌日のニュースで知った
全国で交通事故死ゼロを
達成した日らしかった

澱んだ空
posted by rakuha at 17:39| Comment(0) | ★ノートの遺した傷 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月18日

言葉


言葉を
信じていると
言葉で
伝えた

言葉は
信じられないと
言葉が
返った

見つめ合い
探った
言葉に
ならないところ

そんな全てを
言葉にして
もう一度
言葉を疑う
posted by rakuha at 13:14| Comment(0) | ★ノートの遺した傷 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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